エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
――これが、直樹さんの本性?
『あ! ごめん、また電話する。今休憩中で……そろそろ戻らないと』
サチの言葉にはっと我に返って、慌てて「またね」と言って通話を切る。ぽんとラグの上にスマホを放り出し、その横に寝転がった。
込み上げてくるのは、怒り、だろうか。かっと頭に血が上るようなそんなものではなくて、ひたひたと心の中が冷たい水に侵されていくような感覚。
他に好きな人ができたのなら、それはもう仕方がない。ならばなぜ、私に正直に話してくれなかったのか。
言ってくれればすんなりと別れたか、というと断言はできないけれど、きっと泣いたに決まっているけれど。
それでも、話して欲しかった。彼の口から、ちゃんと別れを聞きたかった。そうしたら、最初は悲しくてもちゃんと別れを受け入れた。受け入れるよう、気持ちの整理をつけるよう努力したと思う。
言葉を尽くしてさえくれたら――直樹さんにとっては、それすら面倒なほど私を鬱陶しく思っていたのだろうか。
「……サイテー」
両手で顔を覆って、宙に向かって吐き捨てた。
幼馴染と再会して、もしかしたら初恋だったりする可能性もある。初恋というものが、どれだけ特別なものであるか、私自身よくわかっているつもりだ。
だけどその綺麗な思い出まで、全部汚された。私の中で、大好きだった直樹さんの姿がノイズがかかったように翳んでいった。