毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


他にも気になる言葉は多々あったけれど、私の思考はあの薄暗くも多くの生物がキラキラとした生命の輝きを魅せる空間で占められている。


小学生の遠足のときに行ったっきりだが、あのときの感動は忘れられない。

動物園や遊園地よりも楽しいその場所を選ぶとは、なかなかやるじゃないか。


「そう、水族館。お礼として僕とそこで過ごしてくれるね?」

「うん」

「よし、言質が取れた」

「あ、間違えた!今のなし!」


デートなんて絶対に認めるもんかと心に固く誓っていたというのに、随分あっさりと返事してしまったのは、水族館が魅力的すぎるせいだ。


でも、水上くんとだけは一緒に行くわけにはいかない。

避けている相手とプライベートで交流なんて矛盾も大概にしておいた方がいい。


次に舞と出かけるときは水族館に行くことにしよう。


帰ったらすぐにでも舞に電話をしようと決めたところ。


「え?君はたった今約束したことをなかったことにしちゃうような人なの?」


肩にぽんと手を乗せられ、そこに微妙な圧がかかった。


「……そういうわけじゃ」

「助けてくれた人のお願い一つも聞いてくれない、そんな薄情な人間なの?」


畳み掛けるように私の良心をぐさぐさと刺してくる。


「………」

「そんなわけないよね。来週の日曜日、朝十時に家迎えに行くね」

「……はい」


私の返事に満足したらしい王子様は持っていたペンを返し、『勉強頑張ってね』と最後に残して去っていった。


何から何まで余裕があって腹立たしい。

と、それと同時に嬉しさも込み上げるから一層面白くない。


終始笑顔を保っている彼が強すぎるのか、それともかろうじて仮面を被っている程度の私がボロを見せすぎなのか。


とにかく、私はまたしても彼に負けたのだった。



< 156 / 207 >

この作品をシェア

pagetop