雲居の神子たち
「理由なんてどうでも良いんだ。今回のことは誰にも言わないから、このまま解放してくれ」

尊は何かを知っているのかもしれない。
この時、私はそう感じた。

「どうでもよくない。お前たちみたいな金持ちに俺たちの気持ちは分からないだろうが、俺たち貧乏人はいつもお前達の犠牲になるんだ。俺たちはただ、静かに、穏やかに暮らしたいだけなのに・・・それを壊すのはいつもお前達じゃないか」
若者が尊に向かってくるのを、
「やめろ」
男性が止めた。

「乱暴にしても何の特にもならない。それに、この人は旅人だ。連れてくるのはこの娘だけで良かったのに」

私?
私を狙って誘拐したってこと?

「何をする気なの?」
声を潜め、近くにいた女性に尋ねた。

「え?」
驚いたように私を見上げ、そして表情が崩れていって・・・女性が涙を流した。

「大丈夫ですか?」
「・・・」
肩を落とし、ブルブルと震えだした女性。

「具合が悪いんじゃないですか?」
「・・・」
返事はない。

「本当に大丈夫ですか?」
座り込んだ女性に手を伸ばし、背中をさする。
「ああ、ああー」
さらに泣く女性。

「もうやめろ」
男性の声。

同時に、
「お母さん」
声と共に奥の部屋から少女が現れた。
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