雲居の神子たち
「いいじゃないか。もし金持ちの娘なら、その子の家から金が取れるかもしれない。そうすればもっと簡単に解決できる」
若者が言い返す。

やはり、お金目当ての誘拐なの?

「止めなさい。もう、お父さんが変なこと聞くから!」
女性が睨むと、
「俺は別に・・・」
男性はしどろもどろになった。

「あのー、なんで誘拐なんかしたんですか?」
思わず聞いてしまった。

誘拐犯に言うのも変だけれど、この人達が悪い人には見えない。
3人もうち誰からも悪い感情は伝わってこないし、むしろ優しくて穏やかな波動を感じる。
こんな人たちが犯罪を犯そうと言うからには、よっぽどの理由があるんだと思うんだけれど。

「理由なんてどうでも良い」

え?

つぶやくように発せられた、尊の声。
見ると、尊が私を睨んでいる。
何で?訊いたらいけないの?

「仕方なかったんだ。さらわれたあんたには申し訳ないけれど、俺たちも苦渋の選択だった」
男性がさみしそうに言う。
さらに女性も、
「私たちも生きるか死ぬかの問題なの」

生きるか死ぬかって、ただ事じゃない。

「それは、一体どういうことですか?」
と訊いた私は
「稲早!」
尊に強い口調で止められた。

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