雲居の神子たち
小一時間かけてやってきた東の村。

普段は深山にいて緑深い山の中に暮らしているけれど、ここはまた違った意味で緑の大地。
人の手が加えられきれいに区画整理された農地が見渡す限り広がっている。

「すごーい」
私の口から出た素直な感想。

米、麦、野菜、果物。
どの区画からも豊かに実った作物が見える。

「素晴らしいでしょ。ここが中の国の作物の半分近くを支えているんです」
「へえー」

見れば見るほど、誘拐や拉致とは無縁に思える土地。
こんなところに、稲早がいるとは思えない。

「少し休みますか?」
「ええ」

息を切らした私を気遣うように、宇龍が木陰に連れて行ってくれた。

近くにあった切り株に腰を下ろし、あたりを見回す。

フ―。
いい景色。

宇龍は私から少し距離をとって座っている。
きっと、宇龍は私の能力がわかっていて、時間をくれているんだ。
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