熱い熱がたまる
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✴︎


翌週。

カレシさんのシフトの日じゃないけど、舞香はまゆ子に頼んで、野球のチケットをもらった。カレシさんの分は、いつもの人に渡して欲しいってお願いしてもらった。


✴︎



席に座って、広い球場を眺める。
風が吹いている。
その風に身を任せていたら、貴文が隣の席にどかっと座った。

とたんに、右隣が彼を意識した。


「秋山がオレに行けって」

「私が頼みました」

「引き返せないけど、覚悟は出来てんの? 」

「出来てます」

「ケジメはつけたの? 」

「? 」

(自分の気持ちのこと? そんなのとっくに⋯⋯ )

「とっくに決まってる! もう、何日も前から、」

って泣いたら、がっと抱きしめられた。

半分ぐらい黙って観戦した。

途中の相手チームのターンで、貴文が立ち上がり、舞香も彼について立ち上がる。
貴文の目には、荒い気持ちが見えた。


✴︎


外野席で野球を見てたから、焼き鳥の匂いや、汗の匂いがしてるのに、その匂いは荒々しい熱にしかならない、かえって気持ちが溢れる。


「欲だけなの? 」

「は?何言ってんの?
欲だけ? 」


と、貴文は舞香に近づきながら言った。
帰れと1人で帰ったホテルの部屋に、今日はダブルベットが一台の部屋で。


「そんなわけあるか。
オレのものになる覚悟は出来てんのか? 」

「うん
北川さんも? 
私のものになるって覚悟あるの?」

「あたりまえだ」


それから貴文は、舞香を腕に抱いて言った。


「止められない、熱くてお前を求めてて、ずっと苦しかった。
どうにもならない、舞香だけだ。
頭がおかしくなりそうだ」


そっとブラウスが脱がされて、床に落ちた。


「修羅場にはオレがついていく」


修羅場? 何か大変なこと、あったっけ、私の親? と思ったけれど、それ以上、頭が動かなくなった。



✴︎



お前!!!

えっ?


真っ直ぐに貫いて、舞香の驚いて見開いた目、貴文は舞香がはじめてなのが分かったのだ。

貴文は、溜まりに溜まった熱がマグマのように激流となって、熱い欲のまま舞香を自分の物にしたと思ったのに、それ以上に驚いて、こんなに驚いて、嬉しかったことはなかった。


「なんで、おまえ、まさか、初めて⋯⋯ 」

「貴文さんだけですよ⋯⋯ えっ? 、当たり前⋯⋯ じゃないですか? ⋯⋯ 」


そのあとの一瞬一瞬が刻まれていく、
頭に、心に、体に。
初めてでこれからも唯一の貴文の形が、舞香に永遠に刻まれた。

貴文がちょっと泣いてる。


「北川さんも⋯⋯ 痛いの?」

「あほか、嬉しいんだ」


と、涙ぐまれた。




✴︎



「お前、秋山とヤッたことないの?」

「?」

「高校から付き合ってんだろ?」

「まゆ子がね。私はしませんよ? 変なこと言わないでください⋯⋯ 」

「⋯⋯まゆ子ってだれ? 」

「何言ってんですか!
秋山さんのカノジョの正岡まゆ子ですよ? 」

「! 」

「まーちゃん?」

「カレシさんにそうよばれてるみたいですね」

「だってお前、舞香だろ」

「そうですよ? 」



✴︎



貴文は、ずっと秋山のカノジョ、『まーちゃん』が、前田舞香だと思っていたらしい。


えっ⁇?


と舞香はすごく驚いて、次に、だからって思って、その次にじゃあ、と思った。


「そうだよ! 」


と貴文が言った。


「紛らわしい名前しやがって! 」


ともう一度、抱かれた。


「前田舞香に正岡まゆ子って、ま、だらけじゃねーか」


と言って、さらにもう一度。

熱く深く、彼の傷ついていた心と、嫉妬と。

溜まり溜まった熱い熱と

愛と

もう、熱く熱く、とどまることがない気持ちが、熱く溶けたら、またさらに熱が溜まって熱くなって、

キリなんてない

おたがいに


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