運命が変えた一夜 ~年上シェフの甘い溺愛~
握っている手の震えが止まったことに気づき、悟は綾乃の方を見た。

その瞳は大きく揺れ動いている。

繋いでいないほうの手でそっと自分のお腹に触れる綾乃。

悟はかける言葉が見つからないまま、綾乃の肩を抱き寄せた。

悟に抱きしめられても綾乃は涙すら流さず、表情を変えない。

「非常に残念ですが薄井さんはまだお若いので、まだまだチャンスはあります。今はまだ、この先を考えることはできないと思いますが、また命を授かるために検査をすることをお勧めします。」
「先生」
表情を変えないまま、自分の胸の中でぼーっと一点を見つめている綾乃を見ながら悟が医師に話しかけた。
「少し二人にしてもらってもいいですか?」
悟の言葉に医師は頷く。
「隣の診察室があいていますので、そちらをどうぞ。落ち着いたら看護師に声をかけてください。」
悟は医師の言葉に頭を下げて綾乃の肩を抱き、隣の診察室へと移動した。
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