運命が変えた一夜 ~年上シェフの甘い溺愛~
「綾乃」
誰もいない診察室。
悟は綾乃と二人になり、綾乃の体を抱き寄せた。

大丈夫なわけない。

なんと声を掛けたらいいかわからない。
もちろん悟自身ショックを隠せない。

気を緩めたら泣きそうで、言葉を発することもできないまま、ただ、自分がしっかりしなければと綾乃を抱きしめながら言い聞かせる。

「大丈夫?」
胸の中から聞こえたその言葉に悟は自分の耳を疑った。
体を少し離すと、綾乃がうつろな瞳のまま悟を見ている。

「大丈夫なわけないだろ。お互いに。」
「ごめんね。私がちゃんと守れなかったから。」
「綾乃のせいじゃない。」
綾乃は涙を見せない。ぼーっとしていて目が合っているようで合わない姿に悟は余計に不安になる。
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