御手洗くんと恋のおはなし
「何もないですよ。相手は国宝級の鈍感なんですから」
「あはは。満くんって女の子全員に優しいから、好意が分かりづらいんじゃないの?」
「それはありません」
「へ?」
「僕、好きな子には少し──意地悪ですから」

 すると、百合はプッと吹き出した。どうやら冗談だと思われたらしい。

「満くん、かわいいところあるじゃない!」
「そう、こんなにかわいいのに見向きもされないんです」
「うそー、その子見る目ないねー」

 その言葉をぜひ和葉に言って欲しい、と満は切に思う。

 とにもかくにもあの林和葉という女の子は鈍感で、それでいて他の男にばかり恋している。
 中学時代はサッカー部エース、高校の今はバスケ部キャプテン。スポーツ万能の爽やか少年に弱いというところが、またわかりやすくて腹立たしいのだ。

「僕は腹黒いから、ある意味見る目があるのかもしれません……」
「あは! 満くんあんまり笑わせないでよ」

 本気で悩んだ発言を百合に失笑されて、満は肩をすくめるしかない。

 自分の恋もこれからだ──と、ここ数年彼氏なしの百合と今後を健闘し合い、バーの時間は過ぎていった。
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