エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
 

「ほら、田所さん、帰りますよ」


 そして、ベテラン看護師さんに促され、田所さんは渋々といった様子で立ち上がった。

 背中は丸まっていて、ひどく小さく見える。

 田所さんが病院を抜け出してきた理由は、結局わからなかったけど……。

 なんとなく、いてもたってもいられなくなった私は、慌てて田所さんのそばに駆け寄った。


「田所さん! 元気になったら、また是非、野原食堂に父特製の麻婆豆腐を食べにいらしてください!」

「あんた……」

「そのときは、餃子をサービスさせていただきますので! だから、絶対元気になってくださいね!」


 私は田所さんのやせ細った手をギュッと握って笑顔を見せた。

 そうすれば田所さんは一瞬だけ目を丸くしたあと、強ばっていた表情を静かに緩めた。


「……ああ、そうだな。元気になったら必ず、また親父さんの麻婆豆腐を食べに行くよ」

「はい! 是非! お待ちしていますね」

「看護師さんたちも、手間を取らせてすまなかったね。病院に帰ろうか」

「あらあら、急に素直になっちゃって」


 私の手を離した田所さんは、脱走してきたのが嘘のように看護師さんたちに素直に従い、病院へと戻っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、ホッと息をつく。

 ……よかった。田所さんも、早く野原食堂に来られるくらいに元気になってくれたらいいな。

 そしたらそのときはまた、色んな話をしてみたい。

 
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