エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
 

小池(こいけ)先生に代金とメモを托してきたんだけど、ちゃんと受け取った?」

「は、はい! ご丁寧にメモを添えてくださり、ありがとうございました!」


 思わず背筋を伸ばして答えると、近衛先生はまたふわりとやわらかく笑った。


「いや、こちらこそ、昨日代金を払えず申し訳なかった。出前もせっかく届けてくれたのに、その場でお礼が言えなくてごめん」


 サラリと、近衛先生の艶のある黒髪が風に揺れた。

 前髪から覗いた綺麗なアーモンドアイに射抜かれたら、心臓がドクンと大袈裟に飛び跳ねた。

 本当に、絵画から抜け出してきたみたいに綺麗な人。

 品の良い黒のチェスターコートの下に着ているのは、いかにも上質そうなチャコールグレーのカットソー。細身の黒のチノパンに、足元はカジュアルな革靴という出で立ちだ。

 手に持っているカバンも、ハイブランドなものに違いない。

 こんなに非の打ち所がない人に、私はこれまで出会ったことがなかった。

 近衛先生の目に今、自分が映っているのだと思ったら否が応でも緊張してしまう。


「改めての自己紹介になるけど。俺は、中央総合病院で脳外科医をしている近衛 透(このえ とおる)といいます」

「近衛透先生……」

「良ければ、きみの名前も聞いていいかな?」

「え……あっ、す、すみません! 私は、野原百合と申します! 野原食堂の娘で、今年二十七になります!」


 パニックになり、聞かれてもいないのに年齢まで答えてしまった。

 自分の失敗にすぐに気がついた私は、思わず顔を赤らめて俯いた。

 うう……。穴があったら入りたいとは、まさにこのことだ……。

 
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