エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
もしかするとこのあと、近衛先生と顔を合わせるかもしれない。
でも、それはあくまでお客様と従業員として会うだけで、結局私たちはそれ以上でもそれ以下でもないのだ。
……やっぱり、私はからかわれていたんだろうなぁ。
年甲斐もなく眠れなくなるほど浮かれた甘い言葉も、今では私の聞き間違えだったんじゃないかとすら思えた。
「こんにちは、野原食堂です! 食器の回収にきました!」
それでも、仕事は仕事だ。私は医局につくとこれまで通りに、元気よく挨拶をした。
「はーい……って、あ。野原食堂さんの……たしか、百合ちゃんだっけ? 久しぶりだねぇ」
中から出てきたのは、近衛先生の同僚の坂下先生だった。
相変わらず人懐っこい笑顔。
なんとなく坂下先生は、患者さんからも同僚の皆さんからも人気がありそう。
「お久しぶりです。今日は兄が仕込みがあるので、私が器の回収にきました」
「そうなんだ、ご苦労様。今取ってくるから、ちょっと待ってね」
ドアを開けたまま、坂下先生が医局の隅にまとめて置かれていた器を持ってきてくれた。
私は条件反射で、医局の中をチラリと見た。
でも、近衛先生の姿は見当たらなくて……。
自分でも無意識のうちに、小さく肩を落としてしまった。