エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
でも、私が今逃げたら、遠野くんは本当に野原食堂に何かするかもしれない。
そう思ったら足がすくんで動けなかった。
「俺、突然先輩がいなくなってから、アレコレ面倒な仕事を押し付けられて大変だったんすよ?」
私は──彼の前では、いつも弱者だ。
もう何度も思い知らされた言葉が胸をよぎって、息を吸い込んだ唇がわなないた。
「そうそう。俺、野原先輩のそういう困った顔を見るの、好きだったんですよねぇ」
「……っ」
「今日は先輩に、どんなイタズラして遊ぼうかなぁ」
「──そこで何をしているんだ」
そのときだ。
凜と澄んだ声が人気のなかった廊下に響いて、沈んでいた意識が浮上した。
「こ、近衛先生……?」
声の主は白衣姿の近衛先生だった。
近衛先生の姿を見た瞬間、強ばっていた身体から力が抜けて、ようやく呼吸ができた気がした。
「……そこで、何をなさっているんですか?」
次に紡がれた言葉は、遠野くんにだけ向けられた、低く温度のない声だった。
近衛先生は私を壁際に追い詰めていた遠野くんをキツく睨んでいた。
その近衛先生の言葉に、さすがの遠野くんもマズイところを見られたと思ったのだろう。
私の腕を掴んでいた手を離すと、私から一歩距離を取った。