クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
 大きなガラス窓のすぐそばにあるソファ。そこに腰掛ける女性に近寄り、「宝生(ほうしょう)さん」と声をかけた。

 窓外に視線を投げていた宝生さんが、微笑を浮かべながら振り向く。

 宝生さんは、三週間前に入所したばかりの齢八十二歳になるご婦人だ。

「陽射しがきつくないですか?」

「大丈夫よ。たまには日光に当たらないと、夜が寝られないから」

 宝生さんはまだ他の入居者の方々と馴染めておらず、自室で過ごす時間が長い。それ故に、個人的に気にかけている入居者のひとりだ。

「今日はご家族の方がお越しになるんですよね」

「そうなの」

 少女のように柔らかな笑顔で頷く姿に、疲労感が和らぐのを感じた。

 癒し系ってこういう人を指すんだよね。

 落ち着いた物腰と上品な話し方。そして刻まれた笑い皺の数が宝生さんの人柄を表している。

 旦那さんに先立たれ、家族と離れてここへ入居したらしいのだが、週の半分はご家族がお見えになる。

 とても愛されているのだなと、私まで幸せな気持ちにさせてもらっている。
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