クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
 ゆっくりと私の身体を解放した遥人さんの顔は、ひどく疲れているように見えた。

「いや、おかしいだろう。どうしてそうなった」

「え?」

 盛大な溜め息を吐き出した端正な顔は、涙でぼやけた私の瞳にはよく映らなかった。

 どうして、そうなった……?

「奥さんってなに?」

 眉間に皺を寄せた遥人さんの声音はいつになく不穏で、先ほどまでの甘い空気は跡形もなく消えている。

「伶香さん……」

 私は消え入るような声で呟く。

「伶香?」

 遥人さんは眉間に皺を寄せ、険しい顔つきのまま口を閉ざす。

「伶香さんという奥さんがいるじゃないですか」

 涙声で訴えれば、「は?」と気の抜けたような声が返ってきた。

「伶香は兄の嫁だけど」

「へ?」

 今度は私が間抜けな声を出す番だった。遥人さんは目元に手をあてて唸る。

「どうりで避けられているわけだ」

 遥人さんの声がどこか遠くに聞こえた。頭と心が激しく混乱していて、心臓の音が全身に響き渡っている。
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