クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
「遥人さん、やめてください」

「嫌ならもっと、本気で抵抗してごらん」

 私の頬をするりと撫でた長い指が顎を掴む。もったいぶるように近づいてきた形のいい唇をさっと避けた。怖くて遥人さんの顔は見られない。

 キスしようとしたよね?

 震える手で遥人さんの胸を押し返して距離を取る。

 どうしよう。このまま逃げる?

 たくさんの感情がない交ぜになって、頭が激しく混乱している。

 だけどこれが最後になるのなら、きちんと話をした方がいいはずだ。

 決心して顔を上げる。見上げた遥人さんの瞳は困惑気味に揺れていた。胸を握り潰されたかのような痛みが走る。

 私だって好きと言いたい。でもそれは許されない。

「奥さんがいるのにダメですよ。これは裏切り行為です」

 しっかりと喋ったつもりだったのに、耳に届く私の声は震えて悲痛に満ちていた。

 時間が止まったかのように私たちの間に沈黙が走る。夏の夜の闇が、湿度をまとって重く垂れ込めている。いつの間にか辺りは暗くなっていた。
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