クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
 住宅地として人気がある立地に建てられ、多彩な樹々や草花に囲まれて佇む地上二十五階建物は、まるで高級ホテルのよう。はたから見たら老人ホームだとは分からないだろう。

 地下一階に駐車場。一階から二階にかけてはショップやレストラン、認可保育所がある。三階と四階は介助を必要とする方々が暮らす、サービス付き高齢者向け住宅。五階から二十五階までは賃貸住宅となっている。

 ふたつ年上である二十七歳の姉は、一階に位置するカフェで働いている。私がここへ就職したのは姉の勧めでもあった。

 鎖骨下まで伸びた癖のある黒髪を後ろでひとつに結んでから、三階の事務所へと向かった。

 続々と出勤してきた同僚たちと申し送りを済ませると、慌ただしい一日が始まる。

 部屋の見回り、麻痺があってひとりでは食事が困難な入居者の介助、それから入浴介助。

 お昼を回る頃にはファンデーションが浮くほど肌に汗が滲んでいた。
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