王太子殿下と王宮女官リリィの恋愛事情
「追い詰められていた?誰かに追いかけられていたのですか?」
「違うよ。実はあたし、その時娼館に居てね。16の誕生日に初めて店に出る事か決まっていたんだ」
わたしの疑問に答えたのは王太子殿下でなくて、いつの間にか2階に上がってきたクレア姉さんだった。
「……娼館?」
「当時はまだあった話だよ。貧しい村人が食い扶持を減らして纏まった金を得るために、娘を売る……あたしもその一人だった。
よくあった話だけどね」
クレア姉さんはさばさばした表情で話すけど……ある意味姉さんも親に捨てられたんだ。わたしより家族と過ごした分、辛さは人一倍あったんだろう。
「……引いた?あたしがそんな場所に居たって知って」
自嘲するようにわたしに訊いてくるクレア姉さんだけど…姉さんはなんにも悪くない。だから、わたしは首を横に振った。
「ううん……むしろ、クレア姉さんがすごいって思ったよ。どんなに辛くても前向きに生きてきて……今は、わたしの憧れる“クレア姉さん”だもの。どれだけ努力したか想像もできないけど。誰がなんと言ったって。わたしには素敵な女性だよ!」
わたしが正直な気持ちを伝えると、クレア姉さんはフッと笑ってわたしの頭を撫でてくれた。
「ありがとう、リリィ。あんたは本当にいい娘だ。だから、王太子殿下も惹かれたんだね」
「ああ、オレが惚れたんだ。いい女だろう?」
「……!」
また、王太子殿下にそんな事を言われたら……顔どころか頭まで沸騰しそうなほど熱くなってしまう。
「ま、ご馳走さまでした!」
ふふっ、とクレア姉さんは笑って教えてくれた。
「リリィ、確かにあたしは1度殿下にお情けをいただいた……けど。あくまであたしが1度きりと懇願したから。初めては好きな人がいいっ…てさ。殿下はお優しいから願いを叶えてくださっただけ。それ以来一度も顔を合わせたこともないし、会いたいと思わなかった。お互いに、いい思い出だからね。だから、リリィ。殿下に本当に愛されてるあんたは幸せだよ。自信を持ちなさい」