悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 この時間が唯一わんぱく双子竜から解放される時間ていうのも大きい。
 足つきの大きな浴槽は真っ白で、魔法のおかげで湯加減は絶妙。魔法仕掛けのシャワーのおかげで髪を洗うのも簡単快適。しかもティティが甲斐甲斐しくお世話をしてくれるし、今日はパックもあるというし。

 わたしはいそいそと浴室へ。

「あああ幸せ」

 適温のお湯に体を浸したわたしはどこかの親父のように「いい湯だのぉ」とご機嫌に鼻歌を歌いだす。

 前世が日本人なわたしはもちろんお風呂は大好きなわけで。乙女ゲームな世界ということもあってこの世界は美容関連のグッツとかも充実している。足を思い切り伸ばせる大きな浴槽にはアロマオイルが垂らされていて。一日の中で一番の癒しの時間。

 と思っていたのに。
 なにやらどたばたと足音が。

「リジー! お風呂って何するところ~?」
「僕も水遊びする~」

 ばんっと扉を勢いよく開けて人間の姿になったファーナとフェイルが飛び込んできて。

「きゃぁぁっ! 乙女の至福の時間をなんだと思っているのよぉぉぉ! 出て行きなさぁぁぁいっ!」

 わたしは乙女の嗜みとして胸元を隠しつつ大声を出す。
 もちろんそれでひるむ二人ではない。

「僕も水浴び~」
「わたしも~」
「わぁぁぁっ! お二方、人間の女性のお風呂を覗いては駄目ですよぉぉ」

「こぉら! ドルムントぉ~。あんたどさくさに紛れて何入ってきてんの! 出ていけぇぇぇ」

 ティティがドルムントに向かって炎を放つわ、双子たちが嬉しそうに浴槽に服を着たままダイブするは、優雅なバスタイムが一瞬にして騒がしくなった。

◇◆◇

「ああもう……疲れた。毎日戦争よ……」

 二日後。久しぶりに竜の住まいへとやってきたレイル相手にわたしは愚痴をこぼしていた。同じ人間同士わかり合えることがあるかな、と思ったのだが。

「子育ては大変だな」

 彼の感想はめっちゃ他人事。そりゃそうか。自分の子供じゃないしね。職場の同僚に愚痴ってもこういう返事しか帰って来ないよね的な見本が返ってきたのでわたしはジト目を彼に向けた。

「レイルって、子育てを奥さんに丸投げしそうよね」
「丸投げっていうか、乳母の仕事じゃないのか?」

 ああ、そうだった。この世界は二十一世紀の日本とはちょっと違うんだった。貴族の子供は乳母に育てられるのが基本だった。忘れていた。最近この世界の人間と話すことが無いから思考回路がめっちゃ前世に引きずられているから。
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