悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「さすがに冷たい」

 冷気に指がかじかんでしまうが、美味しいおやつのためだから頑張ることにする。
 ゆっくりと混ぜていると、徐々に液体が柔らかな固形になり、おなじみのアイスクリームになっていく。

「固まったね」
「うふふ。アイスクリームっていうのよ」
 わたしは上機嫌に答えた。

「あいす?」
「それって甘い?」

「うん。甘いわよ。あ、レイルもう大丈夫。ありがとう。じゃあフェイルとファーナはティティと一緒に器を準備してちょうだい。えっとね、中が少し深い方がいいな」

「はあい」

 二人は待ってましたとばかりに元気よく手を上げてティティと一緒に器を棚から取り出す。ティティとファーナはわたしのリクエスト通り手のひらに収まる銀の器を取り出した。

「あ、そうだ。お母様たちも呼んでくる!」
 興味深そうにわたしの周りをうろついていたファーナが厨房から駆け出していった。

「せわしないな、子供たちは」
「そういうものよ、子供って」
「リジーの言い方は年寄りくさい」

「花の乙女を捕まえて酷い言い草ね。もうレイルにはあげないわよ」
 わたしはぷぅっとむくれてみる。

「あ。今日一番の功労者に向かってそれは無いだろう!」

 レイルが本気で慌てた声を出した。
 あれ。結構楽しみにしていてくれたのかな。だったらちょっと嬉しいかも?

「はいはい。あなたのおかげで助かったわ」
「だろう? 俺ってば頼りになるだろ」

 レイルは気をよくしたのかにっと笑う。彼も割とちょろいな。
 まあ人懐こいレイルの笑った顔は嫌いではないからいいんだけれど。

「にしても、アイスクリームって出来るところ初めて見たな」
「あら、あなた食べたことあるの?」
「昔、作ってもらったことがある。だから最初っからアイスクリームつくるって言ってくれたらよかったのに」

「やっぱりあなたっていいところのお坊ちゃんなのね」
「言い方」
 なぜだかレイルが眉を顰める。

「いい大人にお坊ちゃんは、な」
「いい大人って、まだそんな年でもないでしょう」

「リジーよりかは年上だと思うよ。一応これでも二十二だ。若く見えるよりもうちょっと威厳とか欲しい年頃だから、カッコいいより頼りになるとか言われたい」
「ふうん。じゃあ年上ね。わたしは十七だから」

 一応十七のリーゼロッテからしたらレイルは年上で。
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