悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
黄金竜一家との生活
 夜、わたしが寝支度をしていると、人間の姿になったファーナが部屋へと入ってきた。
 芸が細かいことに彼女が身にまとっているのは寝間着だ。胸元にフリルがふんだんにあしらわれたナイトドレス。

「どうしたのよ、こんな時間に」

 わたしも彼女と同じくナイトドレスを身にまとっている。
 ティティの趣味なのか、わたしのそれにもフリルがこれでもかってくらいついている。わたしの気の強そうな顔には正直似合わないと思うんだけど。

「えへへ」

 ファーナがはにかむ。

 ここで暮らすようになって早ひと月が経っていた。
 子供たちもずいぶんとわたしに懐いてきてくれたように思う。
 やっぱりあれだね。お菓子作ってあげたのは大きかったよね。
 手作りお菓子をつくるのがすっかり毎日の日課になってしまった。

「寝る前にリジーにごあいさつなの」
 ファーナがわたしの座る椅子の側へと寄ってきた。

「じゃあもうあいさつしたんだから早く寝なさい。寝る子はよく育つのよ」
「もう十分に育ったよ」
 そりゃあ生まれて三十年も経てばね。

「はいはい」

 わたしは適当に返事をして髪の毛を梳かし始める。

 寝る前にちゃんと梳かしておかないとね。誰に見せるでもないけれど、毎日の習慣とは恐ろしいもので、わたしはここに来てからもちゃんと自分磨きをしているのだ。

 ティティが色々と用意してくれるっていうもの大きい。

「あ。リジー様ぁ。わたしが梳かしますってぇ」
「ええっ、毎日いいのに」
「リジー様のお世話をするのがいまのわたしのお仕事なのですぅ」

 ティティが素早くわたしから櫛を奪い取る。
 わたしはティティにされるがまま。

 お屋敷にいた時も、侍女に髪の毛を梳かしてもらっていたっけ。あの頃は公爵家の令嬢だったわけだし、彼女たちの仕事でもあったからお願いをしていたけれど今は別に令嬢ってわけでもないからできることは自分でしたいんだけれど。

「うふふ。リジー様の赤い髪の毛、わたし大好きですぅ」

 ティティがうっとりした声を出す。
 炎の精霊たるティティは、炎を連想させる色に弱いみたい。ことあるごとに髪の毛の色を褒められる。

「わたしはできれば金髪の方がよかったけどね」
「人間の価値観はときに謎なのですぅ」
「わたし、金色だよ?」

「そうねえ。しかもふわっふわのやわらかーい髪の毛! いいなあ。かわいいなあ」

 会話に加わったファーナをわたしは手招く。

「そうだ。ファーナの髪の毛わたしが梳かしてあげる。もう一つ櫛あったわよね」
「はいですぅ」

 ティティが櫛を持ってきてくれる。

「おいで、ファーナ」
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