悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 と、扉の前でこちらを振り返り「また髪の毛梳かしてくれる?」と聞いてきたからわたしは「いいわよ」と頷いた。

 ファーナは今しがたわたしがつけてあげたリボンを指でくるくるともてあそびながら「おやすみなさい」と言って自分の寝床へと戻っていった。

「ほほえましいですねぇ」
 わたしの隣でふよふよと浮いているティティが頬に手を当てて見送っている。

「いたずらをしないときは本当に天使なのよね」
「最近は魔法の練習もまじめにしていますしね」

 わたしは、そうね、と頷いてベットに潜り込む。
 夜更かしは美容の大敵、もとい起きていても特にすることがないから最近のわたしは早寝早起きと規則正しすぎる生活を送っている。

「明日も晴れるといいなあ……」
 なんて独り言を言っていると、寝室の扉がばんっと開いた。

「リジー! 僕も僕も! 髪の毛梳かして!」
「フェイル……あなたね。就寝前の乙女の部屋に入ってくる男がどこの世界にいるってのよ」

 今度はこっちか。わたしは身を起こして呆れモードから説教モードに移ろうとしたがフェイルの「ファーナだけずるい! 僕の髪の毛も梳かして」という主張に、ああそうだった子供っていうのは片方だけに何かをするのは後が面倒なんだったと思い直したのだった。

◇◆◇

 ファーナの髪の毛を梳いてあげた日以降、ファーナの様子に少しだけ変化が見られた。
 どうやら少しだけおしゃれに目覚めたらしい。

「今日はね、お母様に鱗のお手入れを教えてもらったの」

 わたしの膝の上にちょこんと乗って、膝をぷらぷら揺らしながら一日の報告をしてくるファーナ。
 わたしは彼女の髪の毛をゆっくり丁寧に梳いてあげている。

「鱗のお手入れってどうやるの?」
「うーん。ぴかぴかに磨くの」

 魔法も使うんだよ、ってファーナが腕を広げて教えてくれる。

「リジーは鱗のお手入れの代わりに、お風呂に入るんだよね?」
「そうね。人間は湯あみをするわね」

 中でもわたしは特にお風呂が大好き。それを知ったティティはあれやこれとずいぶんと丁寧に支度を整えてくれるから感謝しきりなのよね。

「お風呂、楽しい?」
「ええ」
「わたしも一緒に入る?」
「お風呂は一人で入るものよ」
「そうなの……」

 ファーナの声が弱くなる。
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