悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 たぶんって……。
 わたしは沼の淵に座って温泉を覗き込む。

 灰色の泥でできた沼は、当然のことながら底は見えない。
 竜の巨体が入る温泉なんだから人間からしたらかなりの深さがあるのでは、と思い至ってわたしは顔を青ざめた。

 浮き輪的な何かを持ってくればよかった。
 ってこの世界に浮き輪的な何かがあるのかは知らないけれど。

「リジーってば。どうしたのよ。そんなところで固まって」
 湯気の中から現れたのはレイア。
「えっと、どのくらいの深さなのか分からなくて」
「そこまで深くないわよ」

 そういうレイアの体は確かに半分以上温泉から出ている。

「うう~。でも」
 わたしはまだ躊躇してしまう。
「大丈夫よ。ちゃんとわたしが付いているから」
「リジー。一緒に入ろうよぉ」

 竜の姿のファーナも催促をしてくる。
 ええい。ままよ! わたしは恐る恐る泥の中に足を入れた。

 ん、温度はそこまで熱いってこともない。

 けれど、泥に体を浸すのってなにか変な感じ。お湯とも違うし、肌にべっとりとまとわりつくぬるりとした感触。どう表現しようか。うーん……。

「ふわぁぁ……泥のお風呂って初めてだから変な感じがする」

 わたしはゆっくりと泥に体を沈めていく。

 自然の沼だから、お風呂みたいに一気に深くなっているわけでも無くて、浅瀬にわたしは座り込む。そうするとちょうどお腹の半分くらいが泥に浸かるくらいになる。

「泥んこ遊びしてるみたい~」
 ファーナの声が思い切り弾んでいる。
「全身泥パックってことなのよね、これ」

 わたしは手ですくった泥をまじまじと見つめる。前世でもテレビとかで観たことあるし。

「リジー、もっとこっちにおいでよ」
 ファーナはわたしよりも沼の中心にいて、そこに来るように急かしてくる。
「わたしはここでいいわよ」
 深さがどのくらいあるのかもわからないし。

「じゃあわたしがそっちに行くー」
 と言いながらファーナが沼の中を、こちらに移動してくる。

「ぎゃぁっ! 泥が跳ねる! ちょっともっとゆっくり!」
「ええいっ」

 わたしの反応に気をよくしたのかファーナがあろうことか私に向かって泥をかけてくる。
 川遊びじゃないんだから。ちょっとこら。

「こらっ! ちょ、止めなさい。ていうか、竜の姿でとか、卑怯よ!」

 子供とはいえ竜の姿になったファーナはわたしよりも大きいんだから。
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