悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「魔法を覚えた竜の子供ってみんなそういうものよ。あなたもずいぶんとお転婆だったじゃない」
「もう。わたくしのことはいいのよ」

 なるほど。レイアも昔はかなり元気娘だったのか。

「そちらの、人間のお嬢さんもあなたの連れなのよね」

 と、竜の貴婦人がわたしに顔を向ける。
 わたしは自分の身体が緊張するのを感じた。

「あら、楽にしていて頂戴。せっかくの温泉だもの。のんびりと話しましょう」
「は、はい」

 朗らかな声にわたしは少しだけ肩の力を抜いた。

「彼女はリーゼロッテ。シュタインハルツの出身で、まあ色々とあって今はわたくしと一緒に子供たちの世話をしてもらっているの」
 ものすごいざっくりとしたレイアの説明に竜の貴婦人は鷹揚に頷いた。

「そうなの。あなたらしいわね」

 その説明でいいんだ。
 竜の貴婦人は巨体を前のめりにしてわたしをじぃっと見つめる。

 わたしは体を動かせずに、蛇に睨まれた蛙のように固まったまま。カエルの気分がなんとなく分かった気がする。

 顔に泥を塗りたくったままだから、さぞかし滑稽に映っているだろう。

「もう。あなたったら、リジーが固まっているじゃない」

 レイアの執り成しに、竜の貴婦人が彼女の方に顔を向けて「べつになにもしていないじゃない」とつぶやいた。

 いや、結構な迫力ですよ。うん。
 彼女は再びわたしのほうへ向き直る。
 わたしは再び肩に力を入れた。見つめ合うこと数秒後。彼女が息を吐いた。

「ふふ。竜の子供の相手は大変だろうけれど、頑張ってね」
「は、はい……」

 空気を入れすぎた風船がはち切れたようにわたしはいささか放心して返事をした。
 そのあとレイアたち母娘は鱗に塗りたくった泥を乾かした。

 わたしは泥パックを堪能した後、ティティが魔法で泥を流してくれて(炎の精霊なんだけど、近くの水の精霊と協力してお湯を準備してくれた)さっぱりした。

 腕も足も頬ももっちもちのしっとり感触にわたしはにまにましちゃう。

「ふわぁぁ。しっとりしてる。幸せ」
 顔がにやけてしまうのも仕方がない。

「リジー様、お気に召したのならティティ、これからはここの泥を湯あみの時間に準備しますよぉ」
「そんな手間かけさせられないわよ」
「手間じゃないですよぉ~」
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