悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 あ、ホイップクリーム用意するの忘れた。ああああしまった……。
 とかなんとかわたしが心の中でホイップクリームに思いを馳せていると、レイアが客人を伴って現れた。

「リジー、それから子供たちも。紹介するわね。わたくしの古い友人で―」
「わたくしのことはルーンと呼んで頂戴な」

 レイアの言葉を引き取るようにして、女性は自分の呼び方を伝えた。
 きっと、本名をもじっているんだろうな。レイアももともとはレィファルメアって舌噛みそうな名前だし。

「ファーナメリアとリーゼロッテにはこの間会ったわよね。それから、こっちはフェイルリックよ」

 レイアがわたしと双子たちをルーンに紹介する。

 というか、やっぱりというか、この間温泉で会った黄金竜の貴婦人が目の前の女性ということらしい。金の髪に黄金色の瞳をもった見た目年齢二十代中頃から上くらいの迫力美人さん。どこか夜に咲く花を思わせる雰囲気を醸し出している。

 わたしはスカートのすそを持ち上げて、片足を一歩後ろに引いて頭を下げた。

「あらためまして、リーゼロッテと申します。家の名は捨てたため持ち合わせておりません。今は縁あって谷間の黄金竜夫妻の元で暮らしております」
「家の名はわたくしたちにはあまり意味をなさないわ。人と竜は違うもの。もちろん、人を統べる立場の人間に配慮をする心は持ち合わせているけれど」

 そのあと彼女はあまり堅苦しい挨拶はいらないわ、と続けた。
 わたしは顔を上げて、ルーンを眺めた。口元がほんの少しだけ緩んでいる。

「こ、こんにちは。ルーンおばさま」
「こんにちは」

 双子たちが続けて挨拶をした。

「こんにちは。二人とも挨拶ができて偉いわね」

 子供たちの前にしゃがんで目線を合わせるルーンにわたしは好感を持った。

「立ち話もあれよ。今日はみんなでおやつを作ったの。人間のお菓子なのよ。ルーン、あなたも一緒にどうかしら」
 レイアが明るい声を出す。

「そうだわ! 早くしないとアイスクリーム溶けちゃう!」
「パンケーキも焼きたてなんだよ」

 お菓子という言葉で双子たちはテーブルの上のおやつの存在を思い出したらしい。テーブルのすぐ横にぱたぱたと近寄って待ちきれないとばかりに目を輝かせる。

「人間のお菓子……。ああ、だから人の姿に変化しろっていったのね、あなたは」
「ルーンは人の食べ物嫌いだったかしら?」
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