悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「あ、虫」

 森を歩いていると当然虫に出くわすこともあるわけで。
 蚊はいやだな、と思いつつ、わたしは手で虫をしっしと追い払う。

「まーぁ! 虫の分際でリジー様を襲うとは! 不届き千万っ! 覚悟なさぁぁいっ」
「きゃぁぁぁっ! ティティ、こんなところで炎巻きちさないでちょうだい!」
「リジー様を刺そうとする虫なんて丸焼きにしてやりますぅぅ」

 ティティが森の中で炎をまき散らし、双子はティティを応援し。

「こぉら! おまえさんたちうるさいぞぉ!」
 大杉のおじいさんの雷が、森の中にこだました。

◇◆◇

「なんだかんだでここの生活に溶け込んできているよな、リジーは」

 愉快そうに肩を揺らすレイルを、わたしはじとっと睨みつける。
 そんなさらっと言われてもね。こっちの苦労も知らないで。

「これでも色々と気苦労が絶えないのよ」
「いや、マンドラゴラ事件は面白かった」
「ちょっと油断するとすぐにはしゃぐのよ。まったく……」

 最近はずいぶんと大人しくなってきたけど、それでも油断大敵。
 たまに突拍子もないことをやらかしてくれる。

「リジーはすっかりフェイルとファーナのお母さん役が板についてきたな」
「わたしは……せめて親戚のお姉さんって言ってちょうだい」

 わたしはもう一度項垂れた。一応、十代未婚なんですけどね、わたし。

「板についてきたのはレイアの方かな。最初はわたしに子育てって大変ね、とか言っていてのに、すっかりお母さんよ」
「それはリジーの影響もあるんじゃないか?」
「わたし?」

 わたしは首を傾けた。
 レイルは、頷いてから沢につけていた足を持ち上げる。

 今日は天気がとってもよくって、森の中にいても日差しが強い。涼みにやってきた沢でレイルは乙女の前で生足になったのだ。

 まったく、一応こちらの世界ではこういうのってどうなの、って思うんだけど。
 深窓の令嬢の前でやったら顔真っ赤にして固まると思うんだよね。わたしは……まあこのくらいじゃ何とも思わないけど。前世の記憶もあることだし。

「リジー、子供の扱い慣れているだろ。で、結構ぽんぽん言いたいこと言って怒るじゃん。でも、双子は怒られてもリジーによく懐いているし。そういうのを間近で見ていたレイアにとってはいい手本になったというか」

「なるほど」
< 78 / 165 >

この作品をシェア

pagetop