悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 って、暢気すぎか! こっちをあれだけ動揺させておいて。
 い、いやべつに。動揺なんてしていないんだから。

 最近、人間と言えばレイルとばかりしゃべっているから、なんかこう、ちょっと仲良くしているというか。そういうのであって、別にわたしだってレイルのことなんて別になんとも思っていないんだからね。

「あれ、リジー顔赤いぞ」
「うっ……うるさいわねっ」

 なにきょとんとした顔で聞いているのよ。
 あんたのせいよ、馬鹿。とは言わないけれど、心の中で叫ぶくらいは見逃してほしい。

「あ。もしかして暑さにやられたか? やっぱりリジーも女の子だもんな」

 いつの間にか長靴(ブーツ)を履いたレイルがこちらへ体ごと移動してくる。ついでにさらりと額に手をあてるのは一体どういうことか。

「うーん……ちょっと熱い?」
 いや、いたって健康体なわけですから、そう首をひねらなくても。熱は無いですよ。
「もう、大げさね。わたしは元気よ。そうだわ、冷やしておいたメローナ食べましょう」
 メローナという名の中身メロンでも食べたらこの微妙な空気も変わりそうな気がする。

「お。そうだな。双子たちまだ戻ってきてないけど、先に食うか」
「口が悪いわよ」
「おっと、失礼。先に頂きますか、お嬢様」
 改まった口調に、わたしはぷっと息を漏らしてしまう。

「お、お嬢様……とか。あ、あなた、にあ……似合わない」
 くくっと小さく噴き出すとレイルが「俺だって普段はいまよりもかっこつけた口調しているんだぞ」と言ってくる。

 彼は沢の、流れが緩やかなところに入れておいたメローナを両手で持ち上げた。
 初夏の日差しに水滴が反射をしている。
 沢を流れる水は透明で、少し深くなっているところは青く澄んでいる。こういうところで冷やした果物を食べるって本当に贅沢だなってわたしは目を細める。

 レイルは器用に魔法を使ってメローナを切り分けて、その横でティティがお皿を渡している。彼の前では魔法を使えないふりをしているのでわたしはその光景を眺めるまま。

 というか、竜と精霊に囲まれた生活をしているせいでわたしが魔法を使う機会なんてほぼないんだけどね。

「あー。先にメローナ食べようとしている。ずるーい」
 草をかき分けてこちらへ戻ってきたフェイルの開口一番がそれだ。
「はいはい。あなたたちが遅いからよ」
 わたしは開き直る。
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