悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 栗毛色の女性が尋ねてきた。おそらくは三十代、もしくはそれよりも上くらいの外見で、はきはきとした声でわたしに話しかけてくる。

「えっと、森で採れた薬草をお金に換金できればって思って」
「へえ。あんた若いのに薬師なのかい」

「いえ、勉強中というか、薬草に詳しい人から色々と教えてもらって薬草を採っているだけです。症状に合わせた調合とかはできません」

 わたしは素直に答えた。医者の真似事を頼まれても無理だし。
 できれば詳しい人というところは掘り下げてほしくない。なにしろ私に薬草のイロハを教えてくれているのは人間ではなくって森に住まう精霊だし。

「じゃあギーセンのところに行くといいよ」

 と、彼女が言うとほかの女性たちもこくこくと頷いたり「そうだね。ギーセンのところだね」とか言い合う。

 わたしはギーセンという人のお宅の場所を聞いてお辞儀をして立ち去った。
 聞いた話によると、村の商店とのことで、色々なものを取り扱っているとのことだ。ファンタジー小説とかゲームでいうところの何でも屋的存在なのかもしれない。

「親切な人たちでよかったですねぇ」
「そうね。見るからによそ者のわたしにもそこまで警戒していなかったようだし」

 ティティの言葉にわたしは頷いた。
 平静を装っていたけれど、結構ドキドキしていたから、根ほり葉ほり聞かれなくてよかった。

「このあたりの人間は訳ありの人たちにも寛容みたいですぅ。国境沿いで、しかも竜の領域のすぐお隣。脛に傷を持つ人間もちらほら隠れていたりするみたいですが、村に危害を加えないのならやみくもに通報することもないみたいですぅ」

「詳しいのね」
「通りすがりの風の精霊が教えてくれましたぁ」

 ティティはてへっと笑みを浮かべた。

 彼女は律儀にわたしの隣を歩いてくれている。姿を消していてもいいのに、それは駄目ですぅと頑なにわたしの側で実態を保ってくれているのだ。しかも人間に見えるようにいまのティティはボディラインまで女性に似せてくれている。

 結構なボンキュッボンで、わたしは密かにへこんだんだけどね。

「そういう人間って結構この辺に住んでいたりするの?」
「うーん……。まあ、たまには?」
「レイアたちの住まいの近くにもいるの?」
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