悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「いえ。あの辺りにはいませんよ。レイア様たちは子育て中の時結構神経をとがらせていましたし、結界もばっちり張っていましたから。この村からさほど遠くない場所にぽつぽつと住んでいるみたいですぅ」

 と、ティティは宙に顔を向けたあと教えてくれた。
 もしかしたら風邪の精霊がこそこそっと耳打ちをしてくれたのかもしれない。
 空気のある所ならどこへでも現れる風の精霊はこういうときめちゃくちゃ便利な存在だよね。

「どこの世界にもはぐれ人っていうか、世捨て人? 的な人はいるのね」
「そうですね。森の中で暮らしていても一人じゃ限界がありますから。たまに薬草やらなんやらを持ってきて物々交換をしたり、お金に変えたり。村人との交流はあるみたいですぅ」

 なるほど。したり顔で言っているけれどたぶんこれもわたしの目には映らない風の精霊のお言葉なのだろう。

 のんきに話しながらいくつかの家を通り過ぎ道らしいものを曲がったりしていてたどり着いた建物には看板が取り付けられていた。

 看板には『ギーセン商店』と、そのまんまな名前が書かれている。
 わたしは扉の取っ手に手を掛けて、そのまま押した。

 ぎいぃっという音とともにわたしは店内へそぉっと足を踏み入れる。窓は小さく(ガラスは高級品のため)店内は少し薄暗い。魔法使いがいれば、魔法で灯りを生み出すこともできるけど、こんな小さな村にまず魔法使いはいないだろうから薄暗いのも仕方がない。

「いらっしゃい」

 声と共に、老齢の男がわたしを出迎えてくれた。
 痩せた男で、髪の毛は薄く、白髪が多い印象。目の色までは分からない。年の頃はたぶん六十代くらいといった風貌をしている。

「こんにちは。薬草を売りに来たの。ここで買い取ってもらえると聞いたのだけれど」
「ほう……。見ない顔だね」
「そう……ね。最近森の中へ越してきたのよ」
「どのへん、と聞いてもよいものかね」
「結構奥の方よ」

「竜の領域の中か」
「……まあ、そうね」

 わたしが肯定すると老人は目を少しだけ見開いた。

「ふうん。そうかいそうかい」

 老人、ギーセンは一人で納得したように何度か頷いて「では売りたいものを見せてもらおうか」と言ってきた。
 わたしは鞄の中から薬草の束を取り出した。いくつかの種類ごとに紐で結んでおいたもので、乾燥させてある。
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