悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「このあたりにくる行商人は限られているからな。わしが町へ売りに行くこともある。魔法使い相手の商人が仕入れに来るのは年に二回だ。次やってくるのは夏の終わりごろかね」

「このあたりに住んでいる魔法使いはいるのかしら」
「魔法警備隊の詰め所があるのはアルマンという村だ。ここから馬で半日、といったところかね。そこならもう少し開けている」

「そうなの。ありがとう」

 わたしはお礼を言って話を切り上げた。
 ギーセンは必要以上に話さない人のようで、わたしが扉を開けて外へ出ようとしたとき「毎度あり」とトーンの変わらない声を掛けてきた。

 もっと色々と詮索されるかと思ったけれど、案外あっさり解放されて拍子抜けした。森にすむ若い女なんて、訳ありだって喧伝しているようなものなのに。しかもフードを目深にかぶっているし。

「面白い体験でしたぁ。薬草とか魔法に仕える品物を売る体験って初めてですぅ」

 ティティは後ろを向きながらきゃっきゃとした声を出す。
 人間の村を実体を伴って歩いていることが楽しいみたい。まさに観光客って感じ。

「わたしもそれについては初めての体験よ。あとは、このお金の物価的価値がどのくらいあるかってことよね」
「物価的価値ですか……?」

 ティティはこてんと首を横に倒した。

 わたしは微苦笑をして頷いた。今日手に入れたお金は銀貨にして十三枚。森の精霊に教えてもらった、人の世界でそれなりに価値のある薬草を採取して乾燥させて売りに行ったからそこそこの値が付いたと思う。

「まあわたしとしてはこんな田舎の商店で現金をそれなりに持っていること自体驚いたけど」

 なんとなく山間の村だから物々交換が主流かも、って思っていたんだけど。ちゃんと貨幣経済が回っているみたい。一見の客に手形取引なんて持ち掛けないだろうし、たとえ持ち掛けられても困っちゃうけど。これから商人になる予定なんてないしね。

「このお金はどのくらいの価値があるんですかぁ?」
 ティティはわたしが手のひらに乗せた銀貨を一枚手に取ってかざした。

「わたしも、そこまで一般市民の暮らしに詳しいわけではないけれど……」

 前世の記憶が蘇ったわたしは、バッドエンド回避として死んだふりをすると決意したときにこの世界での一般市民の金銭感覚についても調べた。
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