悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
 ただこの部屋にいるだけでいいらしい。わたしは深く考えずに自分の顔のお手入れを再開させる。化粧水を肌に染み込ませて、そのあとはクリームを塗っていく。こういうところは前世とあまり変わらない。ティティが乾かしてくれた髪の毛を丁寧に梳いていく。梳かしつつ髪の毛の艶具合を確認したり。

「最近お外に出るときにリジーが腕とかに塗っているのは、今は塗らないの?」
「ああ、あれは虫よけ薬だもの。外に出るときだけね」

 ザーシャから買ってきた虫よけはハーブで作られていて、ハッカの香りがする。森の精霊に実際に香りを嗅いでもらうと、いくつかのハーブの名前を挙げられた。

 この世界に梅雨はないから、春から夏にかけてからりとした天気が続いていく。もちろん雨は降るけれど、暑くなってくると虫が発生するのは必然で、しかもここは人の手があまり入っていない森の中。

「わたし、リジーのこと好きよ」
「ありがとう」

 突然の告白にわたしはお礼を言った。
 ファーナはとたたっとこちらに歩いてきて、わたしにぴたりとくっついた。椅子に座っているわたしの胸のあたりにファーナが顔をうずめる。

 なにこれ、可愛い。つい、その白くてふわっふわな頬をつんつんと突きたくなる。

「お母様のこと大好きだけど、リジーのことも大好き」

 それは、このくらいの子供にとっては、かなり大好きということではないだろうか。小さいころの母親って絶対的存在だし。そのくらい好きだと言われたら、なんだか胸の奥がじんわり暖かくなる。

「ありがとう。わたしもファーナのこと大好き」
「だから……ね。ずっとずっと一緒がいいなって」
「ファーナ……」
 ファーナは顔をあげてわたしのことをじぃっと見つめてくる。

「もっとね。もっと人間のことも知りたい。リジーと一緒にお菓子も作りたい」
「もうしばらくはあなたたちと一緒にいるつもりよ」

 たぶんファーナは不安になったのだろう。わたしが人間の村に行ったから。自分たちをおいて出て行ってしまうと思ったのかもしれない。

 それは嘘ではないんだけれど……。
 うーん、困ったな。一生ここにいることはできないけれど、もうちょっとここにいてもいいかなって思うくらいには今の生活は快適すぎるし双子は可愛い。色々とまずいなあ。

「しばらくってどのくらい?」
「その質問が一番困るのよね……」
 あはは、とわたしは苦笑い。
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