悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムは死亡しました
「いい子ってどのくらいのいい子? いい子にしていたらわたしのことも人間の住むところに連れて行ってくれる?」
「そういうのはお父様に聞きなさい」

「お父様はリジーがいいって言ったらって言ってたよ」
「……」

 ちっくしょうミゼルめ。全部こっちに投げたな。

「すくなくとも面白半分にマンドラゴラを抜いてるようじゃあ駄目ね」
「うっ……。わかった。もう抜かない」

 って、生活費のためにマンドラゴラ採取したわたしが言えた話じゃないけど。大人ってこういうもんなんです。ごめん、と心の中で謝っておく。

「ほら、もう寝なさい。子供は寝る時間よ」
「明日も一緒に遊んでくれる?」

 最後の答えに頷いたらファーナは満足したのか「おやすみなさい」と言ってぱたたっと部屋から出て行った。

「すっかりリジー様に懐いていますねぇ。特にファーナ様は」
 感心したようにティティはファーナが出て行った扉の方に顔を向けている。
「そんな要素まったく思い浮かばないんだけどね」
 唯一あるとすれば、お菓子で釣ったくらい。お菓子すごいな。

「あのくらいの年頃だときれいなお姉さんって憧れですから」
「ああその感覚は分かる気がする」

 わたしも小さいころ、親せきのお姉さんのことが気になっていたっけ。しかし生まれから身についたプライドの高さが邪魔してなかなか素直にそれを表現することができなかった。そんなわたしにアイスクリームをつくってくれたお姉さんはマジ天使だった。

「わたしもリジー様のこと大好きですよぉ」
「なんか、照れるわ……」
 悪役令嬢として生れて、こんなふうに好意を示してくれることなんて今まで皆無だったし。

「照れたリジー様も可愛らしいですぅ」
「もう、からかわないでよ」

 わたしは真っ赤になってそっぽを向く。
 ティティから顔を背けても、宙に浮いている彼女はすぐにわたしの顔の方に体を動かすから質が悪い。照れた顔が丸見えじゃない。

「うふふ。リジー様はやっぱり可愛らしいですぅ」
「寝る! わたし寝るから」
 わたしは勢いよく立ち上がった。

◇◆◇

 梅雨のないこの世界で、春から夏にかけては気持ちの良い季節でもある。
 森に入れば桃やさくらんぼに似た果物が今が盛りとばかりにたわわに実っている。清流では時折魚の鱗が反射をしているし、まるっと太った魚の香草焼きが美味しいことに気が付いたのは最近のこと。
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