君と私で、恋になるまで
「なんで、居るの…?」
フラつく身体に精一杯の力を込めて、そう尋ねる。
熱さを逃したいと吐き出す呼吸が大きくて、言葉はぽそりと落ちただけのものになる。
「……熱が出てるのに気づかないまま商談して、帰ってきた危ない人が居るって噂で聞いたので。」
変わらないロートーンでそう告げてくる言葉に目を細めた。その噂の出処、見当がつきすぎるんだけど。
いつもは私を見下ろす男が、少し上目遣いのようになって私と視線を絡ませる。
そういう視線にも、突然の登場にも、心拍は刻むスピードを上げ続けていて、自分ではもう止めようが無い。
いてもたっても居られなくなった私は、「そうなんだ」と動揺を隠してなんとか立ち上がろうとする。
それなのに。
すぐに私の肩を優しい力で抑えるようにして、その行手を阻むこの男のことが、全然分からない。
「…今日は、午後休にして良いって。枡川の上司からのことづけ。」
事情を亜子が話してくれたのだろう。
火照る身体と強く痛み出した頭でその言葉を受け止めれば、少しホッとした。
肩を掴んだ手を離した男は、枡川、と私を呼ぶ。
続く言葉が予想できなくてただ見つめ返すだけになる。
男は、その姿勢のままゆっくりと言葉を繋いだ。
「…俺が、送っても良い?」
「………え、?」
「お前のこと。俺が連れて帰りたい。」
やけに扇情的な瞳の熱が、その言葉と共に私に届いてまた体温が上がった気がした。