君と私で、恋になるまで
そうしてそのままタクシーの後部座席に乗り込んでしまえば、瀬尾は私の最寄駅を運転手さんにナチュラルに告げた。
あれだけ飲みに行っていれば勿論住まいの話をしたこともあったけど、駅名とかまでちゃんと覚えてたんだな、と隣で男を見ながらそう思うだけで心は跳ねる。
「…枡川、駅前で大丈夫?」
「あ、うん。うちのマンション前、ちょっと道細いからそれで大丈夫。」
「ん。じゃあそれでお願いします。」
そう運転手さんに告げる瀬尾と、私の手は、まだ離されていない。
私から離すことなんて絶対に無いのにどうするつもりなの?って言ってやりたい。
「(なんか、ちょっと腹立ってきた…)」
顔の赤みはきっと、とっくに最大値に達しているけど、ずっと翻弄を続けてくる瀬尾をそのままジトリと睨む。
私の視線に気づいた男は、呼応するかのように目を細めて
「その真っ赤な顔、面白いからやめて。」
と呟いて前を向いてしまった。
自分が繋いで離さない手が、私の面白い顔の大きな要因だと、この気怠い男は分かっているのかな。
「…飲んでる時の3倍サービスくらいの赤さでお送りしてます。」
「タコ越えてきてびっくりします。もう寝てて下さい。」
視線は合わせないままに、息を溢すようにそう笑うこの男がどうしても好きだと、心が飽きることなく訴える。
呼吸を繰り返す中で、熱と一緒に「好き」を吐き出せてしまえたらいいのに。
ままならない感情を遮断するように目を瞑れば、やはり身体はそれなりに限界を迎えていたのか、あっという間に意識は遠のいていった。