君と私で、恋になるまで
迷いの中でとりあえず言葉を発しようとした瞬間。
「______ちひろ、お待たせ。」
いつの間に目の前に来ていたのか、いつものロートーンボイスでそう告げた男は、気怠い雰囲気のままに私を包むように抱きしめた。
「はあ!?」「なんでお前が出てくんだよ央!!」
と色んな声が後ろで飛んでいるけど、私は瀬尾の胸に顔を預けてしまっていて、更にガッチリとホールドされていて、あまり状況は掴めない。
ちょっと待って、何この流れは、とあたふたしつつ話をしようとするのに、瀬尾はぎゅっと抱きしめる力を強める。
そして。
「それは、勿論出てきますね。
この子、俺が出会ってすぐ一目惚れして、
やっと付き合えた彼女なので。」
サラリと夜の空気に溶けていきそうな温度の言葉が発せられた瞬間、騒がしかった声は綺麗に止んで。
「じゃあ、お先に失礼します。」
高らかな宣言だけを残した男に腕を引かれた私は、また駅の方へと半ば強引に歩みを進めることになってしまった。
頭は完全に放心状態の中で後ろを振り返ると、大多数の人が恐らく私と同じ惚けた顔をしている中で、香月さんだけが、愉快に笑って手を振っていた。