君と私で、恋になるまで
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「…お、お邪魔します。」
外観からお洒落なデザイナーズマンションは、もうずっと足を踏み入れるのもドキドキしていたけど、最近はやっと少し慣れてきたところだ。
2人で一緒にいる時に、本当に書類を渡すくらいの軽さで「はい。」なんて、ゆるく笑って鍵を渡してきたあの男を思い出す。
受け取って慌てふためく私にもまた笑っていたけど。
いつでも来ていいと、そう言われても私はやっぱり未だにこの鍵を使う時は事前にメッセージを入れるようにしている。
《今日、残業あるから先帰ってて。》
そのメッセージを確認した私は、こうして今日の仕事を終えて、お言葉に甘えて家主より先に部屋に入る。
誰も居なくてもやっぱり"お邪魔します"と毎回言ってしまうのは、なかなか直らない。
壁の時計だとか、家具やラグの色合いだとか、狙いすぎて無いのにセンスが良いとどうしたって分かるレイアウトには、来る度に毎回ちょっと負けた気持ちになってしまう。
鞄を置いてジャケットを脱いだ私は、とりあえずご飯を作ろうとキッチンへ繰り出す。
スーパーに寄って買ってきた食材を広げつつ、ふと考えることはやっぱりあの気怠い男のことで。
付き合い始めて、もう半年以上経った。
殆ど、喧嘩をした事も無い。
その中でたった一度だけ、亜子に「は?くそくだらな。」と鼻で笑われそうな言い合いもどきをこの部屋でしたことがある。
それなのにこいつの夜ご飯は作らねば、と何故かそこの考えだけは残った私は、テーブルに茶碗いっぱいに盛ったホカホカの白ごはんと塩辛だけ置いて、部屋を出ようとした。
だけど、すぐに追いかけてきた男に腕を掴まれて。
"……お前なんなの。あれはズルいだろ。"
のらりくらり笑って、ごめん、と抱き締めてくるこの人を、「嗚呼、私はもう手放せないな」と当たり前のことを瞬間的に思った。