君と私で、恋になるまで
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「…ちひろ。」
「…ん……?」
心地よい声で名前を呼ばれながら肩を優しい力で揺すられ、従順に目を開ける。
「お疲れ。」
「ご、めん…寝てた…!」
視界の先には私の心をいつも占領している、気怠い男が微笑んでいた。
お皿へ盛りつけた2人分の料理たちにラップをして、あの男の帰宅は何時頃になるのかな、なんてスマホを見つつ考えていたらソファでそのまま眠ってしまっていたらしい。
慌てて起き上がろうとすると、ゆるい笑顔の男は私の隣に腰掛けてきて何故だか距離を詰めてくる。
「…お、遅かったね、お疲れ様。」
何気ないそういう行動でさえ、私は未だにドキドキしてしまうから、それを誤魔化すように労いの言葉を告げて壁の時計を見ると、針はもう22時を過ぎていた。
「え、22時半!?本当に遅かったね!?」
「うん、ちょっと立て込んでた。」
「そ、そっか…そんな時に呑気に寝ていてすまない。」
「なんで謝んの。」
2人で座るには丁度良い、ふかふかのソファで向かい合う男は私の謝罪を特に受け止めずクスクスと笑う。
だけどその表情には、疲労が確かに垣間見えた。
「あ、ご飯、冷蔵庫に入れてあるから食べてね。」
「…うん?」
「ごめんね遅くまで居座ってて。」
今日は週の中日である水曜日。明日も当然仕事がある。
謎に勝手に人の家で寝ていただけの私は、慌てて立ち上がってジャケットを羽織った。
話はまた今度、ちゃんとしようと考えて、後ろにいる男に言葉をかけようと振り返ると、
「一緒にご飯食べてくれないの?」
私の腰にするりと手を回して聞いてくる男に、身体があっさり硬直した。