君と私で、恋になるまで
訪れた沈黙が、辛い。
どういう反応を受けるのか、それを待っている時間はより一層気持ちを悲観的にさせる。
すると、暫く口を割らなかった男が再び手を繋いでいるのとは別の手で私のおでこ辺りをこつ、と触れた。
「……」
促されるように、視線を目の前の男に向ければ相当顔に不安が滲んでいたのか「なんて顔してんの」と、息を零してゆるりと口角を少し上げた。
「…俺、学生の誰とも連絡先交換してないけど。」
「……え。」
「1つ思い当たるとしたら、今回参加してたデザイン職志望の子が、就活でも使う予定のポートフォリオの専門的な批評が欲しいって言ってて。
ならそれ、デザイン事務所とかで働いてる人に意見貰えた方が良いだろうなと思って、大学の時の先輩の連絡先は教えたけど。」
「……、」
「ちゃんと吉澤さんには伝えてる。
もしかしたらそのデザイン事務所で気に入られて、採られる可能性もありますけど、って。」
"こっちも、うちに欲しいと思った子には全力でアプローチかけるからご心配なく。
そのためにインターンやってんのよ。"
「…吉澤さん、強い。」
「まあ、あの人が強く無かった日が無いよな。」
くすりとロートーンボイスと共に笑ってまた私の髪を撫でる男を見つめていたら、安堵なのかなんなのか、また胸に何かじわじわ込み上げるものがある。
「…瀬尾さん、”格好いい”って言われてました。」
「ふーん?」
そう、と特に何も感情のこもって無さそうな声。
この男は別に、その評価を望んで動いていない。
だからこそ、あの女の子達の感想は何も違和感は無い。だって瀬尾の行為は、うちの会社から考えたら特にメリットは無い。むしろ採用活動においては、さっきの吉澤さんの言葉の通りリスクもある。
…それでも自分のために、ちゃんと人事に話をつけてから誠実に協力してくれるなんて。
「……瀬尾さん。」
「なんですか。」
「…あんまり、格好いいとこばっかり、
他の人に見せないで、」
のらりくらり、全てを難なくこなすような姿勢を見せてばかりのくせに、本当は誰かへの優しさで溢れている。
そういうこの男が、同期としても、1人の人間としても誇らしくて、好きで、ちょっと置いていかれそうな寂しさも抱えてしまう。