君と私で、恋になるまで
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「…っ、あの、」
「ん?」
ソファで向かい合って暫く深いキスをただ、必死に受け止めていたら、その流れのまま優しく腕を引いて寝室へと誘導されて。
ベッドに腰を下ろした次の瞬間には、くるりと視界が反転して、見慣れてきた天井越しに気怠い男の整った顔が眼前に広がっていた。
央は、全然、いつも優しい。
触れる手指も、身体をなぞる唇も、私を見下ろす奥二重の瞳も、全部優しくて愛しい。
……それはいつも通り、なのだけど。
「な、んか…、んっ、」
「うん。」
途切れた言葉しか出ないのは、もうとっくに息があがり過ぎているからなのに、返事をする男は平静とした声を保ち続けていて、その差にも恥ずかしくなる。
真っ暗な空間で、私の言葉を食べるようにまたキスをされて、伝えようとした気持ちが音になる前に、はやる鼓動に負けてすぐ、散らばってしまう。
眼差しは私に向けたまま、細く長い指が器用に内腿をそっと撫でる。
丁寧で、どこかまどろっこさを抱えて、その動きをずっと繰り返されると、もう思考がおかしくなりそうだった。
「なかば、今日…っ、なに、」
「……」
痺れを切らしてなんとか漸く告げたら、ふと眼前の男の口角がゆるく上がった。
「……ヤキモチ、嬉しかったから。」
「…は、?」
ロートーンが告げてきた言葉が予想外過ぎて、乾いた一文字がぽつりと漏れた。
生理的に既に目尻に浮かんでいた涙に唇で触れた男が、やはり緩やかに笑っている。
「嬉しかったから、その対価はちゃんと払おうかと思って。」
「…意味、わからな…、っ、あ、」
謎の告白を受けて理解できないと主張しようとした瞬間、急に下着の隙間から直接触れられて、喉を突き出すように背中が少し仰け反ってしまった。
キ、と睨んでも全然、男の瞳の優しさは変わらない。どうやら多分、これは反省もしてない。
今日はこうして、なんというか、焦ったい男の手つきに最初から翻弄されてしまっている。
「……対価に、しては、タチ悪い、」
「丁寧に愛でただけなんだけど。」
悪びれもしない男のふざけた答えに「なんだそれ」と怒りたくても、やけに嬉しそうな表情に負けて結局受け入れる自分が悔しい。
……自分が妬くのなんか、もういい大人のくせに、余裕が無くて、みっともなく思えてしまうけど。
"今日、プレゼン後に
学生にナンパされてましたよね。"
「…央。」
「ん?」
「私も、なんか、対価払いたい。」
この男からのヤキモチは、嬉しい。
そういう気持ちで提案したら、鼻先が触れる距離の男の眉がみるみる寄って、顔に険しさが生まれる。
「それは嫌。」
「え、理不尽。」
「なんとでも。」
跳ね除けてちょっと笑った男が囁くように「男が妬くのは格好悪いだろ。」と一方的な考えを呟いて、それを認めさせるようにまた唇を合わせてくる。
相手からのヤキモチに、対価を与えるのは嬉しい。
でも、自分の嫉妬に
対価を与えられるのは、ちょっと気恥ずかしい。
そんなの、私だって、そうなのに。
「…やっぱり理不尽だ。」
「枡川さん、なんかまだ余裕そうですね。」
「……え、」
戸惑う私にまた、食らいつくみたいな口付けをして
綺麗に微笑む男が、"やばそう"だと言っていた意味を、正しく理解する羽目になるのはそこから数時間後のことだった。