君と私で、恋になるまで
振り返ると、まだ濡れた髪の隙間から、奥二重の瞳と視線が交わった。
私の異変に気付いたのか、ソファまで足を進めた男がそっと隣に腰掛ける。
央はいつも、「どうした」とはあんまり聞いてこない。同期だった頃から、付き合ってもずっとそうだ。
ソファのシートが1人の重さ分だけ、またゆっくり沈んだのを感じていたら、とても自然な流れで黙って抱き寄せられた。
お風呂上がりで、さっきより幾分高い温度の男に包まれる瞬間がもうとっくに、1番安心してしまえる。
「…央。」
「ん?」
「私は、いつも勢い先行で仕事しがちだけど。」
「知ってる。」
即答されてしまうのも、どうなのだろう。
言葉に一瞬つまったら、喉奥で笑いを噛み締めた男が私を抱きしめる腕に力を込めた。
「でも、やっぱり、
央が頑張ってたら頑張ろうって、思う。」
その単純で大切な想いを心に置いたら、
しんどいことにも、なんとか向き合っていける。
「急に、何。」
「…何でもないよ。」
そういう風にこの男も感じてくれていたら嬉しいなと思いつつ笑ったら、「泣くのか笑うのかどっち。」と、安堵の声で尋ねられた。
そして柔らかい微笑みと共に、再び薄い唇を開く。
「俺も、そうだけど。」
「…、」
「現場を駆け回ることは無くなっても、場所が変わっても、結局お前は一生懸命だから。
ちひろは面白いとこ含めて自慢だって、前から言ってるだろ。」
余計な単語を添えられた気がするけど、嬉しさが先に来て、また心にじんわりと温かい熱が灯る。
「……個性強い同期で、良かったね。」
「同期だし婚約者だし、大変光栄ですね。」
剣のある言い方をしてみたのに、それも丸ごと"婚約者"という言葉に包み込まれてしまった。
また頬が染まる私を面白そうに観察してるのが悔しくなって、弧を描く優しい瞳に吸い寄せられるように、見上げる形になっていた男にそっとキスをする。
数秒間の触れ合いの後、視線を恐る恐る合わせたら、驚きに満ちた顔の男と対峙した。
私からすることは、数えられるくらいしか無いから仕方ないかもしれない。
なかなかに、ハレンチOLを発揮した。
「…枡川さん。」
「なんですか。」
「今のは誘いましたよね。」
「え、」
そう問いかけつつ大きな手で両方の頬を包まれて、強制的に視線がまた、持ち上がる。
改めて見つめた男は、ゆるく笑うのに双眸の光は鋭くて。その緩急にいつだって惑わされっぱなしだと、知っていた筈なのに。
「____俺は、"やばそう"って忠告した。」
最後はロートーンで囁くように告げた男に、そのまま唇を容赦なく噛まれた。