君と私で、恋になるまで



「…何、実は未練があるとかなの?」

亜子の方を向きながら、開いたエレベーターへと足を進める。

「未練…」

確かに、そう思われても不思議では無い。

それは勿論違うのだが、一樹に会って何を話せばいいのか…そう溜息をついた瞬間。


「………あ。」


亜子が前を見たままそんな短い声を上げたので私も自ずとそちらへ視線を向ける。


「…!」

エレベーターの奥にもたれるように、やはりいつもと同じ気怠げな姿勢で私たちを迎える瀬尾がいた。


「なんだ、あんたも外出てたの。」

ドドドと急にうるさいくらいの心拍を刻み始めた私の隣で、亜子は平然とそう声をかけた。

うちのオフィスが入るビルは、地下1階からが近い駅と、1階からが近い駅がある。

私と亜子は、今日は1階から外へ出て近くのお蕎麦屋さんへ行ったのだが、どうやら瀬尾は地下1階からこのエレベーターで上がって来たらしい。


「(き、聞かれてないよね、今の会話…)」


未だ早いスピードで脈打つ心臓を気づかれないように抑えながら、瀬尾の前に亜子と並んで立つ。

背後からの視線にこんなに敏感になってるのはきっと私だけなんだろうけど。


「古淵がまた仕事でミスしたって凹んでたから、昼飯付き合ってた。」

「あいつは1日に1回はなんかやらかす男ね。」

「打ちひしがれたまま、クライアントのとこへ行ったけどな。」

「目に浮かぶわ。」

瀬尾と亜子は、軽快なリズムで会話を交わすが私はうまく入れなかった。


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