君と私で、恋になるまで
おい古淵、人事の吉澤さん、お前のこと鬼みたいな顔でめっちゃガン見してんぞ。
そう心で話しかけながら、にやけそうになる顔を何とか抑えた時だった。
「__ふ、」
左隣から、少し高い、息を漏らしたに近い声が聞こえた。
俺は思わず、周りにはバレないようにそっと隣に座る人物に目線だけを向ける。
ピンと伸びた綺麗な姿勢で座っていたのがまず印象的だった。
艶やかな少し茶色がかった髪を低い位置で束ねたその女は、横顔でも高い鼻筋がよく目立った。長い睫毛が伏した瞳に沿うように綺麗な曲線を描く。
違和感と言えば、口元に左手を当てて、何かを耐えてるような仕草。
あまり見てられないと、俺は再び前を向く。
社長の話は、まだまだ終わりそうに無い。
相変わらず、古淵はその頭をふらふらと揺らして意識が天に召されていた。
こいつマジでチャレンジャーすぎて尊敬するわ。
すると、再び。
「__ふ、」
隣から、高いトーンの息遣いが聞こえる。
ちょっと待て。
__もしかしてこいつ、笑ってる?
視界の左端で映る隣の女は、俯いたまま深く息をして自分を宥めてから再び意を決したように前を向く。
しかし、丁度真正面でゆらゆら踊る古淵を見て再び俯く。
それを繰り返していた。
いや、こいつらマジで集中しろよ。
全く人のことが言えない俺も、笑いを噛み殺した。