君と私で、恋になるまで
入社式の後、とりあえず飲みに行くか、
そうなるのは、新社会人の鉄板の流れな気がする。
その証拠に、飲み屋街に繰り出した俺たちと同じような年のスーツ姿の男女が騒がしく溢れていた。
しかしこういう時の古淵は尊敬に値するくらい行動が早く、既にしっかり大衆居酒屋にて、同期15人分の席を確保していた。
長いテーブルに、店員が「いらっさーせー」とほぼ開いていない口で挨拶をしながら乱雑におしぼりとお通しである大皿に乗った枝豆を置いていく。
早めに帰ろう、そう心に決めて適当に座ろうとした瞬間、
「瀬尾っ!あっち、あっち座ろ!!」
「はあ?」
「あそこの2人、めっちゃ可愛いと思ってて!
これは行かねばならぬよホトトギスじゃね!?」
古淵がよく分からない迷言と共に、俺の腕を勢いよく引いて、ズンズンと奥へ連れて行かれる。
どこの時代の殿様だそれは、すぐ滅びるわ。
「此処、座っても良い?!」
そして辿り着いた先には、すでに腰を下ろしていた女が2人。
テーブル越しに、視線を合わせた瞬間。
「__あ。」
「?」
おしぼりを隣に手際よく回していた女と目があった。
その艶やかな髪と、はっきりした目鼻立ちに今日の入社式で隣だったのは、こいつだとすぐに気づく。
真正面からやっと確認したそいつは、くっきりとした二重が印象的な瞳に、す、と伸びた高い鼻に小さく薄い唇。
どちらかと言うと、端正な涼しい顔立ち、と言った方がしっくりくる。
思わず、あ、と声を出してしまった俺に、女はきょとんとした顔でこちらを見つめていた。
「あ、初めまして、枡川 ちひろです。」
そして、そのまま自己紹介と共に、あまりに顔をくしゃりと急に解して満面の笑顔でそう言うから、今度は俺が面食らう。
…笑うと随分印象が変わるな、と思いながら俺もやっと腰を下ろした。
「…瀬尾 央です。よろしく。」
そう言う俺に向かって、目尻を下げてよろしく、そう言うやはり屈託の無いその笑顔が、意図せず酷く焼きついてしまった。