君と私で、恋になるまで





「…どした?ちひろ。」

「ごめん亜子、先行ってて。」


はーい、なんて軽く返事をしてみんなと外へ向かう亜子に微笑んでわたしは未だに鳴り続けるスマホへ視線を落とす。

着信の主は、私が大学1年の頃から付き合っている一樹(いつき)だった。

誰も居なくなった宿泊施設のロビーでソファに座ってそっと応答ボタンを押す。


「……もしもし、」

"もしもし、ちひろ?急にごめん。今日の研修は流石に終わってるよな?"


「うん、だいじょうぶだよ。」

"…そっか、良かった。"



ぎこちない会話と空気が続く。

おかしいな。

付き合った頃、どんな些細なことも一樹に1番に伝えたかった。

この数日間の宿泊研修でしんどかったこと、笑ったこと。
「今日なんて、今からみんなで星を観ようとか言い出すんだよ」って、前までの私ならきっと話をしていた。


学部が同じだった一樹は、人懐っこい笑顔が印象的で、仲良くなるのに時間はかからなくて。

告白された時は凄く嬉しかった。




____だけど。


"ちひろ、多分俺たち同じこと思ってる。"

「……うん。」


いつから私、一樹からの連絡を待たなくなってたんだろう。


就活で、卒論で、就職したら今度は研修で。

忙しい理由を並べて、会えない日々が続いて。

今度はどこで会おうかって、スケジュールを調整することもしなくなって。


そんな関係、もうとっくにおかしいって本当は気付いていた。


"…別れようか。"


一樹は、言葉短く、それだけを言った。


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