Dying music〜音楽を染め上げろ〜

ステージの上に立つとお客さんは歓声をあげた。








「…あー…皆さんこんばんはぁ。3週間ぶりくらいですかね?お久しぶりです。」






ー Cyanー!

ー うぇーい!久しぶりぃ!





「皆さんアガッてますね笑」


みんな前のめりすぎない?ここのハコ、そんなに容量ないぜ?



「今日は久しぶりってことで,3曲歌います。」




…さぁ,ここからはCyanの世界だ。CyanだけのLIVEだ。



裏の師匠に合図を送る。










パッとステージの照明が暗くなる。







一曲目,クラッシュエンド。




原曲はキーが高めだけど,裏パートでは低音
が曲調全体を支えているって感じのパワフルな曲。





ーお前は何に怯えて過ごしてる?

ー殻に閉じこもって人生終わんのか?

ー人の目なんか気にすんな

ーぶっ壊して常識を変えろ







サビの部分にあるこの歌詞が人気。自分の本当の姿を隠してひっそり生きていくんじゃなくて,その殻を破って,自分らしく生きてみろよって歌。






この曲の中には俺自身にも当てはまる歌詞がたくさんあるから感情が入りやすい。




強くするところは強く,弱い部分は裏声も入れながら。…





〜〜🎶……♩♩ーー…












観客の割れるような拍手が起こる。


間髪入れずに,次の曲『HOW ARE YOU?』






全然テイストが違う曲。カレカノが別れるんだけど結局お互いに依存し合っていて忘れられない?みたいな歌。1番では彼氏側の気持ちを描いた歌詞で,2番が彼女側の気持ちを歌っている。



普段はこういうのは歌わないんだけど,先週リリースされてからリズムにハマってリピートしてた。だから1週間で歌詞も覚えちゃったんだ。



この曲はちょっとしんみり歌う。とくに2番の彼女側の時は喉から搾り出すような細い声で。




ーどうして?ねぇどうして?

ーアタシが1番じゃなかったの?

ー他の女に手を出すアンタは嫌いだけど

ーでもアタシを優しく抱くアンタはまだ大好きなの





たまにちょっと過激な歌詞が入ることもあるけど,こういう人間のドロドロした部分を表してる曲ってなんか分かんないけど惹かれない?




〜…🎶…♪……ーー…





仮面の下に汗が滲む。


 
二曲目が終わると観客もみんな高揚していた。ここで一回MCを入れる。






「…はぃ,えーみなさんどうでしょうか… ?『HOW ARE YOU?』は先週リリースされたばっかりですけども。聞きましたかね?」



ー聞いた〜!

ーまだァー!



「あぁー…半分半分くらいですね。ストリートのね,角のショップにまだ在庫あるらしいんで…よければぜひ聞いてください。」




宣伝みたいになっちゃった。







「じゃあ最後行きますか…」




ー『First KING』













〜🎶ッッ♪〜〜!🎶〜🎵〜ダ






この三曲の中で1番激しい曲。感情を乗せてもまだ足りないくらい。




今日,保健室で2人からリクエストされた時から歌いたいと思ってた曲。the・KINGの歌詞。






ー 俺がココの世界の王者

ー 庶民は全員膝跨き

ー 俺に従え仰せのままに







歌詞を見るだけだと,横暴な王様。でもMVを見ると物語性が浮かび上がってくる。革命が起きて一族が亡命する。でも王自身は国から逃げ出さなくて,反勢力と戦って打ち勝つストーリー。








歌と曲には全部物語がある。

起承転結がしっかりしていて,それぞれ主人公がいる。


歌うとき,俺はその曲の主人公になりきって歌うんだ。


彼に捧げるラブソングならその彼女になりきって。




地獄のような悲しみや怒りを表す歌なら今までの絶望感,悲しみ,葛藤感,全部載せて歌う。



歌詞だけだなく,感情でも人を動かせるような歌を歌うために。









〜🎶🎶♪〜………










「ー…ありがとうございました。」








全3曲のステージを終えた。


ステージを降りると師匠が裏で待っていた。






「お疲れさん。あれだな,もっとミックスボイス使って歌うといいな。」

「ぅぁはぁい」







ふにゃふにゃした返事になった。

はいってちゃんと言おうとしたんだよ?そしたら喉が締まって変な声になったんだよ。




「声おかしくなってんじゃねぇか。…でもよかったぞ。」

「あざます…」

「ほれ。」





そう言って手にくれたのはGO○IVAのチョコレート。







「えっ⁈なんでっ⁈」

「客から貰った。ナツにも分けてやれってよ。」

「やったぁ!」




GO○IVAのチョコなんて滅多に食べられないぞ。何これ、キャラメル味?うわぁ。


チョコに夢中になっていると


「…早く帰って寝ろ。美奈子が心配するぞ。」



師匠がそう言ってきた。後ろの時計を見ると9時半を回っていた。



あー楽しかった。…ミックスボイス、もうちょっと練習してみよ。









Midnightを出て帰路につく。

 
チョコレートも美味しいし。



空を見上げると星が輝いている。






ー……「やっぱり音楽は素敵だ。」






答えるようにギターケースがガゴッと鳴った。


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