Dying music〜音楽を染め上げろ〜






師匠から聞かされた外部からの依頼。しかもナツとしてではなく、 Cyanとして。外部から名指し依頼なんて初めてで戸惑っている。


だけど、それ以上に戸惑っていることは、




「どういうことですか?なんでCyanがここにいることを知っているんですか。」




だってCyanのステージを見ることのできる客は限られている。ほとんどは師匠の長年の友人や常連さん。


Cyanがここにいることは秘密だし、店のHPにはCyanとしても、ギター代理のナツとしても名前は一切載せていない。客はこの店に来て初めて俺の存在を知る。




「依頼主は誰ですか?」

「シュートという人物からだ。」





シュート…?






誰だ。



師匠は話し始めた。


「お前、マスターのことは覚えているか?」

「はい。」



マスターは隣の区にあるクラブの店長さん。師匠と同じミュージックストリート出身で師匠と今でも友好が続いている。








「シュートってのはマスターのクラブ働いでいるDJだと。」




俺にも師匠にもDJ とのつながりはない。



どういうこと?



マスターは俺の正体を知ってる。でもあの人のことだ。他人に無断で口外するような人ではない。


…だとしたらなぜ、そのシュートという人物が俺の存在を知っている?






「俺はプライベートライブでしか歌ったことないですよ?」

「そうだよな。しかもマスターもいつどうやってCyanの存在を知ったのか分からないらしい。」





依顧主も情報ソースも経緯も謎。詳細不明ってわけね。警戒心が倍増する。






「…それで、依頼ってのは?」

「マスターのクラブでのステージを希望しているらしい。」




ステージ。Cyanとして歌えってことか。どストレートに頼んでくる奴だな。



俺はMidnight以外で演奏したり歌ったりした経験が無い。理由は怖いから。俺が一番恐れていることは正体がバレること。


まだ高校生で未成年。もし俺がそういう場所に出入りしていれば、学校側に報告がいく可能性もゼロではないだろう。それでCyanとバレたらヤバい。



Midnightならほとんどが常連客だから外に情報が漏れることも少ないし、広まらない。要するに、守られている。





「あそこはMidnightよりも観客数が多い。だが、照明設備がしっかりしているからステージ演出で顔は見えない。それに社会勉強にはなると思う。」

「…考えさせてださい。」





返事はとりあえず保留してもらうことにした。

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