Dying music〜音楽を染め上げろ〜
師匠に似ているって言われたときは素直に嬉しかった。だってずっと一緒に過ごしてきたんだ。嬉しいよ。
ー 本当に身内だったらよかったのに
いや、これは今考える必要はない。師匠と音楽できることだけで幸せなんだ。
駅についたらここで解散。俺だけ反対方向の電車に乗る。
「今日はありがとうな。長澤さんにもまたお礼言っておいてくれ。」
「うん。じゃあまたね。」
その夜、マスターから送られてきたのは店舗の地図とタイムテーブル。俺の出番は約20分。ということは3曲もあれば十分だ。歌う曲を決めよう。
やっぱり再生回数が多い曲を優先にするべきなのかな。でもクラブの客層が分からない。
若者が多いなら流行りの曲やショートムービーで使用されているような曲でもいける。客層が幅広い場合は少し知名度あるバンドやアーティスト系のジャンルがいいのか…
「ん〜……、ムズイ。」
自分のチャンネルに投稿した曲をスクロールしていいものがないか探す。
…改めて思ったが、暗いな。明るめの曲なんて5本くらいだろう。んー、どうしよう。
10分後一
「やめた。」
誰かにどう思われるって考えを、やめよう。周りの目を気にするんじゃなくて、
自分が歌いたいと思う歌を歌おう。
俺は一旦チャンネル画面を閉じて、作業用のタブを開いた。その中のファイルに入っている曲のリストを開く。
ここに入っている曲は人前では歌わない曲だ。暗い、怒り、悲しみ、観客が盛り上がりそうもないようなくらい曲ばっかりだ。だからステージで歌うことはほとんどない。
でも、俺はこの曲が歌いたい。この感情を届けたい。だから歌う。
3曲選ぶと音源ファイルを師匠に送信した。これでいい。
一「楽しさが足りていないんだと思う。」
涼に言われた言葉を思い出した。
…まずは自分が楽しくないとね。歌いたい曲を歌うよ。