泣きたい訳じゃない。
「日本に帰国してからは、彼女には会っていないし、連絡もしていない。」

「それは信じる。ねぇ、私が泣いてたら、私のこと好きじゃなくなってた?」

「それはない。莉奈に泣かれるのは辛いけど、泣かない莉奈に不安になった事もあるし。俺がいなくても平気なのか?って。」

「拓海が『笑え。』って言うから、無理して笑ってたのに!」

「ごめん。でも、空港で笑っててくれたのは助かった。」

私は、ここへ旅立つ時の母の笑顔を思い出す。

「私もここへ来る時に、母が笑顔で見送ってくれて、すごく心強かった。ロスでも頑張れる気がしたの。」

「そうだな。あの莉奈の泣き笑いの笑顔は忘れないし、俺の支えになってた。」

「私がロスに来る事を相談しなかったのは怒ってないの?」

「驚いたけど怒ってはないよ。ただ、ロスのメンバーにさえ嫉妬はしたよ。どうして、俺が会えないのに、あいつらだけ莉奈に会えるんだって。」

谷山さんが話してくれた約束のことは聞かないでおこう。

「私がロスに来たのは、自分を変えたかったから。拓海がいなくても、頑張れる自分でいたかった。」

「俺はどんな莉奈も好きだけど、俺がいなくても平気になられるのは困る。」

「平気とは違うし、私の心から拓海がいなくなるなんてないから。その方が楽だと思ったことはあったけど。」

この数ヶ月でいろんな心境の変化があったのは事実だ。

「俺はずっと莉奈に会いたかった。」

「私も会いたかった。」

今なら素直に言える。
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