契約期間限定の恋。
未来の私はどっち。
「桜田さん、下の名前雪乃さんって言うんだ。冬生まれ?」
「いえ、七月七日です。両親が沖縄の生まれで
、雪を見たことがないからって」
「へー。面接のときネタになっていいなそれ」

 アルコールが回って男性陣の口が饒舌になる中、もはや慣れたこの手の話題を適当にいなして小麦色のグラスを煽って飲み干す。
 ちぐはぐな名前と生まれ月は、確かに履歴書の中では職務経歴やスキルよりも目につきやすい。
 そこから話を膨らませて、長年培ってきたコミュニケーション能力で自身のスキルをアピールして行けば大概が就業契約成立だ。
 そんなお決まりの会話もこれで何度目かになろうかと密かに辟易していたとき、隣に座っていた浩介は、空いたグラスにビールを注ぎながら他意の無さそうな笑みでこう言った。

「けど桜と雪って風情あるよな。北国じゃ雪景色の中に桜が咲いてるって言うし。一度拝んでみたいよ」

 桜田さんと吉島課長から雪乃ちゃんと吉島さんになり、雪乃と浩介になったのはいつからだったっけ。
 好きだとか嫌いだとかそんな感情は無くて、ただ体の相性と都合がいいだけの関係だったはずなのに。
 ベッドの中で体を貫かれ続けたとき、一度だけ弾みで「好き」と言ったら「ここ?」とまったく見当違いな受け取り方で胎内を抉って来たド天然男のことは忘れていない。
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