訳アリなの、ごめんなさい
「あら、お疲れ様、、、少しまともな顔になったのね?」

入室早々にかけられた妃殿下からの言葉に苦笑した。

そして殿下のアレは彼女の差し金だった事も理解した。

「ご心配をおかけしました」

妃殿下の前まで行って礼を取ると、彼女はいいのよと笑った。

「アーシャには気にするから絶対に言わないつもりだけど、もともと私がイヤリングを落とさなければ、こんなことにはならなかったのだもの。ごめんなさいね」

「いえ、遅かれ早かれ起こった事ですから、、、むしろすぐに私が駆けつけられる日で良かったのです」

「そう言ってもらえると、少し気が楽だわ。ありがとう。」

そう言って彼女は席を立った。

「アーシャには貴方が必要よ。どんな言葉を言ったとしても、貴方のことを心の底では愛してるわ。だから頑張って押しなさい」

ブルーの瞳でしっかり見つめられる。
どこまでも深く、見透かすような輝きだ。

「命の限り、尽くします」

負けずにその目を見返せば、彼女はふふふと鈴を転がすように笑って、そして部屋を出て行った。



妃殿下を見送って、先ほどまで彼女が掛けていた椅子に腰を下ろすと妻の顔を覗き見る。


午前に比べて幾分か顔色が良くなってきたように思える。
医師の話では今夜から、眠りを誘う薬をやめると聞いているので、じきに目が覚めるだろう。

きっとそれからが戦いになる。


彼女の手を取って、甲に口付ける。手首にはまだ縄のあとが薄らと残っている。
せめて彼女が目覚める時に、消えていたらいい。


今でも脳裏には、乗り込んだあの瞬間の光景が焼きついている。

彼女の手で自ら命を手放そうとしたあの光景は、生涯自分の記憶から消える事は無いだろう。

彼女が命を断とうとした理由は、あの男の話を聞いたからこそよく分かった。

彼女は自分の誇りを守ろうとしたのだ。あと少し発見が遅ければ、手遅れだった。

腕の中で、みるみる色をなくしていく彼女をただ抱きしめるしか出来なかった。


彼女の命が今にもこの手からこぼれ落ちるのではないかとおもうと、怖くて仕方なかった。

彼女を失ったら、自分は生きていけない。もし彼女が逝ってしまうのなら、自分もついて逝く。

彼女をもう1人にはしない。

極限の中でそこまで考えたのだ。

だから、どんなことがあっても彼女の手を離すつもりはない。
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